名古屋高等裁判所 昭和52年(ラ)60号 決定 1977年5月09日
抗告人 菊田政昭
主文
原決定を取消す。
本件競落を許さない。
理由
一、抗告人は、原決定を取消し、更に相当の裁判を求める旨申立てた。
その理由は、要するに、本件入札期日の通知が、同期日までに利害関係人である抗告人に到達しなかつたのに、右通知を有効なものとしてなした競落許可決定は違法であるから同決定の取消を求めるというにある。記録によれば、名古屋地方裁判所は、昭和五二年三月一八日、本件入札期日を同年四月八日と定め、同年三月二五日抗告人に対しその旨(簡易)書留郵便により通知書を発送したが、抗告人がこれを受取つたのは右入札期日の翌日であつたことが認められる。しかしながら、入札期日の通知は利害関係人に対してこれを発すれば足りるものと解されるから(競売法二七条二項)、右期日の通知が抗告人に到達しなかつたからといつて本件入札手続が違法になるものではなく、この点に関する抗告人の主張は理由がない。
二、しかし、一方、職権により記録を調査すると次の事実が認められる。
本件入札期日は、前に共同競落人となつた抗告人及び木村八重の両名が、昭和五二年二月二二日の代金支払期日に出頭せず、代金支払手続を履行しなかつたことから定められたものであるところ、同裁判所は同年二月一〇日、右代金支払期日の呼出状を書留郵便により抗告人に発送したが、右郵便は抗告人不在につき配達不能として還付され、抗告人には送達されなかつた。その間裁判所は、抗告人を呼出すための何らかの処置を取ることなく、代金支払期日を実施し、本件再入札期日を指定、公告したうえ、新たな競落人に対し競落許可決定を言渡した。そのため、抗告人は前記代金支払期日に出頭する機会を得なかつたばかりか、前記のとおり本件入札期日の通知を期間内に受けなかつたこともあつて、同期日の三日前までに競落代金等を支払つて前の競落を復活させる機会をも失つた。
三、ところで、任意競売においても、裁判所は、代金支払期日を定めた以上は、民訴法六九三条を準用して、右期日に競落人を呼出さなければならないと解されるから、前記のとおり競落人であつた抗告人を呼出さないでなされた本件代金支払期日は、競落人に対し重大な不利益を課するものであることに鑑み、適法に開かれたとは認め難く、したがつて、これを前提とする本件入札期日も、その指定自体が違法という他はないから、かかる期日の指定、公告は、競売法三二条によつて準用される民訴法六七二条第五号に該当すると言うべきである。
そうすると、本件抗告は理由があるから、原決定を取消し、本件競落を許さないこととし、主文のとおり決定する。
(裁判官 柏木賢吉 高橋爽一郎 福田皓一)